ダイヤモンドダイニング ～一般信用在庫と釣り上げ工作～

2017年6月5日、居酒屋経営のダイヤモンドダイニングより分売が発表されました。
分売内容の詳細については分析ページまたは実施予定IRをご覧ください。

分売数量は25万株で発行済株式の3.21％、実施予定日は2017年6月12日(月)～6月16日(金) のいずれかです。
過去2回も既に分売実績があり、特段不自然さはなかったので順調に終わるものと思っていましたが…

お決まりのパターンなので、初めての方は東京個別指導学院の例を予習しておくことをおすすめします。

今回も例によって大株主の状況を見てみましょう。

第3位株主のアサヒビールは4.4％を保有しており第3位株主ですが、関係強化のために飲食店と資本提携をすることはよくあることで、特段の公表なしに株式を手放すとは考えられません。

ということは今回発行済株式の3.21％分売をできる株主は筆頭株主で創業者社長の松村厚久氏か、もしくは(株)松村屋とわかります。

この(株)松村屋とは松村厚久氏の資産管理会社であり、大量保有報告書を確認すると共同保有者であると判ります。

つまり、今回は創業者による保有株式の売り抜けであり、この時点で嫌な予感がしていたわけですが…

松村厚久氏の動向を追ってみると、昨年2016年6月16日に大量保有報告書(変更報告書)を提出していることが判ります。
それによると6月9日に新株予約権の行使で40.29万株を取得しているようです。

6月9日…ということは、勘の良い方は既にお気づきでしょう。
立会外分売で売却する株式は1年以内に取得した株式でないことの確認が取れないと、東証の規定により売却できません。

つまり、それを経過した2017年6月10日以降であれば売却可能というタイミングです。
今回はそれに合わせて分売予定期間を2017年6月12日(月)～に設定されている可能性が濃厚です。

さて、前置きはこの辺にしておいて、ここからは分売の実施で株価はどうなったでしょうか。
株価は分売前は2350円前後で推移していました。

制度信用銘柄で空売りは出来ませんが、優待銘柄なのか珍しくSBIの一般信用（5日売り）が可能かつ在庫がありました。
任意返済期限が5営業日であるため、発表翌日に空売りをしても十分に間に合います。

普段の出来高に対して5倍近い数量の分売があるとすれば当然株価は需給悪化で下げるため、空売りが入ります。

6月9日（金） 分売実施予定日初日です。
それなりに空売りは入りますが、買いが時々入ることもあり2300円を大きく割れることもありませんでした。

ほとんどの場合は初日実施が普通であるため、市況が悪いわけでもなく、特に売り込まれているわけでもないため普通に考えればこの日に実施するだろうと思っていたわけですが、結局実施IRは出ませんでした。

そればかりか月次売上や譲渡制限付株式報酬としての新株式発行のIRが出る始末で、こんな重要な開示が出る状況では中止も視野に、とても実施IRが出るとは考えられない状況でした。売り方は冷や汗が出たことでしょう。

6月12日（月） 初日実施せずということで空売りの買い戻しが入りますが、まだ信用期日前のため大きくは上昇しません。
ただ通常は寄り天になることが多いですが、どうも買い支えアルゴのようなものが入っていたためか陽線引けします。

初日見送りはそれほど珍しいことでないので、明日こそ実施かと思われましたが…発表はありませんでした。

6月13日（火） 分売発表翌日に空売りをしていれば任意決済期限が12日、強制決済が13日の寄付きです。
この日は寄りから100円近く窓を開けて上昇し、その後も株価は堅調に推移します。

さて、通常は一般信用の在庫は強制決済されたのだから復活して当然かと思われますが、見ていた限りでは12日以降ではまったく復活した形跡はありません。 そのため買い一辺倒になった株価は否が応でも上昇することになります。

しかしながら、この日も一向に実施発表がされることはありませんでした。

6月14日（水） 見ていた限り7日頃までは在庫はあったため、その分の強制決済で株価はさらに踏み上げます。
この日はそれまでの年初来高値2,548円を上回る2,645円を付け、年初来どころか上場来高値を迎えます。

当然ながらこの価格帯での実需などはあるわけがなく、ほとんどがアルゴによる仮装売買のようです。
こんな値段を基準に分売されたらとてもたまったものではありません。

幸か不幸か、この日も結局実施発表はありませんでした。
こんな高値を付けても分売実施をしないというのはもはや理解不能です。
今日も見送れば踏み上げで更に上がるであろうという見え見えの強欲さには恐れ入ります。

6月15日（木） ここまでで中止発表がないのであれば、最終日には実施するだろうという冷静な売り方による空売りが入ってか、寄りこそは前日とほぼ同値だったものの、この日は大陰線を付けます。

さすがに観念したのか、あっさり16時には終値2,405円からの割引率-2.54％で2,344円実施する発表をしてきました。
どこかの学習塾みたいに割引率-1.52％というクソ渋いわけではないだけは良心的に見えますが…

強欲さが及んでか、昨日の上場来高値圏での値決めとならなかったことだけは不幸中の幸いでしょう。
これでも十分売り込まれているように見えますが、分売結果はどうなったでしょうか。

こちらは寄付き10秒前の08:59:50頃の板状況です。

価格を釣り上げているため実需の買いは入りづらく、ほぼ空売りの買い戻し需要だけで分売価格はあっさり割って、始値は2,344円と分売価格-10円で寄りました。

寄りで5万株程度しか捌けなかったため上値は重く、結局それからは当日高値は分売価格を1円上回っただけでまったく見せ場はありませんでした。

これだけ売り方を全員丸焼きにしてしまい、実需のない価格帯に釣り上げをしてしまえば当然こうなることは誰の目にも明らかです。

というわけで、売り方は初日以降の踏み上げで自滅し、買い方は良くて同値撤退しても手数料負けというひどい案件でした。
確実に儲かったのは売却主の松村氏だけでしょう。

こちらに分売前日と当日の2日間の日中足を貼っておきます。

以下に分売発表から実施日までの株価推移をまとめておきます。

さて、今回問題になりそうな部分としては一般信用在庫の件なしには語ることはできません。
こちらは貸借銘柄ではないので制度信用売りはできませんが、SBI証券の一般信用売りは発表初日の在庫は◎でした。

一般信用売りの在庫株式は証券金融会社（日証金）からの調達はできないので、通常は証券会社自身がが貸株市場や、自社の貸株サービス利用中の顧客や、または大株主などと契約を結んで調達してきます。

日計り信用であれば1日分の在庫さえ考慮すればいいので、自社の貸株サービス利用中の顧客などから調達できるかと想像が付きますが、優待銘柄では権利日には貸株解除をする顧客が多いと想定されるため、安定した調達元にはなりえません。

貸株市場でもインデックスに採用されるような流動性の高い銘柄であれば大口の安定保有先などから調達もしやすそうですが、この銘柄はそうであるとは考えづらい状況です。

そうなると必然的に大株主からの調達が考えられますが、ここで大株主の状況を思い出してみましょう。
安定して一定量の株数を調達できる株主は…と考えると必然的に、今回の分売の売主である松村氏しか考えられません。

あ、このパターンは…そう、東京個別指導学院とまったく同じような構図が想像されます。

今回は逆日歩刈りではありませんが、これだけの状況が揃っていることからすると、踏み上げることを見越して十分にあった貸株在庫を分売実施週にはを引き上げた可能性も否定できない状況です。

そうでないと、分売実施前週まで在庫◎だったものが、強制決済されても在庫が復活しないというのは説明がつきません。

というわけで、今回も大株主の手のひらの上で見事に踊らされて、分売価格が釣り上がったことで分売に応じた個人株主がお財布となり、売主に2500万円分儲けさせる案件となってしまった状況です。

またまた今回も、創業者社長で大株主が貸株に絡む案件というのはろくなことにならないといういい教訓になりました。

こういう露骨なことをする案件は殿堂入り扱いとしてこちらで永久保存記事にするので、上場企業の皆様方は分売如きでセコいこと考えないで素直に実施しましょうね。

日付	注釈	始値	終値	前日比	出来高
6/5(月)	分売発表	2,387	2,322	-15	36,000
6/6(火)	発表翌日	2,300	2,279	-43	86,100
6/7(水)		2,277	2,321	+42	56,500
6/8(木)		2,310	2,298	-23	51,100
6/9(金)	実施期間初日前日	2,290	2,294	-5	59,000
6/12(月)	見送り1日目	2,350	2,373	+79	67,400
6/13(火)	見送り2日目/6日分強制決済	2,473	2,483	+110	179,700
6/14(水)	見送り3日目/7日分強制決済	2,550	2,600	+117	163,200
6/15(木)	見送り4日目	2,593	2,405	-195	138,700
6/16(金)	実施日	2,334	2,329	-76	229,100